いまだに鉛蓄電池の補機用カーバッテリーが主流である理由

いまだに鉛蓄電池の補機用カーバッテリーが主流である理由

リチウムイオン電池と言えば、EV車やハイブリッド車に欠かせない電池となっています。そんなリチウムイオン電池ですが、実はガソリン車やディーゼル車のカーバッテリー(いわゆる補機用/始動用)にはあまり使われていません。

補機用のカーバッテリーとして使われているリチウムイオン電池と言えば東芝のSCiB(ワゴンR、デイズ、MAZDA3、etcに採用)などがありますが、まだまだ採用されている車種はそれほど多くありません。

カーバッテリーと言えば高校の化学の授業でも出てくる鉛蓄電池がいまだに主流なのです。 鉛と聞くと環境汚染のイメージがありますし、実際にヨーロッパなどでは規制に向けた動きが見られています。

また、EV車やハイブリッド車の多くもメインのバッテリーとしてのリチウムイオン電池に加えて補機用に鉛蓄電池を使用しています。かのテスラのEVも、公表はしていないので確実なことは言えませんが鉛蓄電池が使われているのではないかと言われています。

それでは一体なぜエネルギー密度や寿命特性が優れていてメモリー効果もないリチウムイオン電池ではなく、鉛蓄電池がいまだに補機用/始動用バッテリーとして主流なのでしょうか。

理由1:高温・低温に対する耐性

リチウムイオン電池が抱えている大きな課題の一つが、高温・低温に対する耐性を両立させるのがかなり難しいということです。

技術的な工夫として、例えば電解液に添加材を入れるなどの手段はありますがほとんどの場合は高温での性能と低温での性能はトレードオフの関係にあります。

リチウムイオン電池は高温になるとただでさえ劣化が進みやすく、しかも場合によっては発火する危険性も有ります。特に真夏の炎天下で充電するような場合だと、ただでさえ熱いのに充電時の発熱でさらに温度が上がるためかなり危険です。

そうなると、今のカーバッテリーのような比較的ラフな使い方ではなくしっかりと熱コントロールができるようなシステムにする必要があり、単純に今のカーバッテリーを置き換えればいいという話ではなくなってくるのです。

一方で低温下ではリチウムイオン電池は鉛蓄電池と比較しても入出力が出しにくいものが多く、寒冷地での使用に耐えうる性能を出すのは中々簡単ではありません。

しかも、低温下で無理やり充電しようとすると負極にリチウム金属が「電析」する現象が発生するため危険です。(一度電析すると元に戻りづらく、発火や爆発がさらに起こりやすくなります。)

東芝のSCiBは特殊な負極材料(通常の黒鉛でなくチタン酸リチウム)を使用することでこのような課題をクリアしていますが、エネルギー密度はかなり低めでコストもかなり高くはなっています。

そのため、EVやハイブリッド車では電池パックの温度を制御するシステム(ヒーターや冷却装置)を搭載していることがほとんどですが、ではその熱制御システムに使う電気はどこから来ているかというと…多少の温度変化があっても動作しやすい鉛蓄電池から供給しているのです。

理由2:繊細な充放電制御が必要

さらに、これはEVやハイブリッド車でも同じですがリチウムイオン電池を使用するのであればしっかりとした充放電制御は必要不可欠です。

鉛蓄電池はそこまで繊細な充放電制御は必要ではなく基本的には過充電の状態(充電が100%を超えている状態、つまり充電しっぱなし)で使うのが基本ですが、リチウムイオン電池でそのようなことをしてしまったら間違いなく発火・爆発します。

かといって充電切れになるのも困るので、制御回路を搭載して充放電する範囲をコントロールしながら使用する必要があります。つまり、ただ単に今の鉛蓄電池をリチウムイオン電池に繋ぎ変えるだけではいけないということです。

一般の消費者がその辺のリチウムイオン電池を買ってきて鉛蓄電池からリチウムイオン電池に変えるということは非常に危険なので間違ってもしないようにしましょう。

充放電制御自体はきちんとしたメーカーなら技術的には全く難しくはないのですが、それを行うとなると車両システム自体の設計も必要ですしコストも上がるため、メーカー側としてはよほどやる気と余剰のリソースがないと取り組みにくいのです。

理由3:リサイクルの問題

そして意外かもしれませんが、寿命が来て使い終わった電池のリサイクルという観点ではリチウムイオン電池よりも鉛蓄電池の方が圧倒的に体制は確立されており優れているのです。

リチウムイオン電池に関してはコバルトをはじめとする電池材料の資源制約の問題もあり、リサイクルもしくはリユース技術の開発も進められていますが現状では法制度の整備も含めて課題は山積みです。

使用済みリチウムイオン電池の回収率に関してはあまり正確な数字が出てきませんが、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構によればEUで10%以下という情報もあります。リチウムイオン電池原料へのリサイクル率は1~3%ともいわれています。

一方で鉛蓄電池に関しては、古くからある電池とのこともありリサイクルシステムが確立されています。

アメリカの Environmental Protection Agency の資料によれば、2017年時点で鉛蓄電池のリサイクル率は99.1%となっており最もリサイクルの進んでいる工業製品の一つと言えます。このうち鉛蓄電池原料へのリサイクル率も70%と優秀です。

現在は市場に出回って間もないリチウムイオン電池(主にEV、ハイブリッド車)が多いためそこまで問題としては顕在化していませんが、リサイクルやリユースをどうするかというのは補機用バッテリーに限らずリチウムイオン電池全体の問題として大きいです。

そのような背景も、鉛蓄電池が自動車の補機用バッテリーとして確固たる地位を築いた一因なのです。

まとめ:鉛蓄電池が置き換わる日はまだ先

このような背景があるので、鉛蓄電池がリチウムイオン電池に完全に置き換わる日はまだ先と言えます。特に製造のフェーズでの環境負荷やコストという面では、リチウムイオン電池が乗り越えるべき課題はまだまだあります。現実的に考えれば、わざわざ鉛蓄電池から置き換えるほどではないとも言えます。

とはいえ、鉛がこれまで多くの公害を起こしてきた物質でもあり欧州を中心として規制を求める声が高まっているのも事実です。そのため、リチウムイオン電池の性能が向上することによって補機用バッテリーの主流になる日がくることももしかしたらあるかもしれません。