「EV×シェアリング」実現のために本当に求められる電池の姿

「EV×シェアリング」実現のために本当に求められる電池の姿

自動車業界を一変させるとされているのが「CASE」という造語でまとめられている4つの概念です。

  • C…Connectivity(IoT化)
  • A…Autonomous(自動運転)
  • S…Shared(シェアリング)
  • E…Electric(電動化)

このうちのElectricはリチウムイオン電池(および全固体電池などの次世代電池)の技術的進化が大きく関わっているのは誰の目にも明らかです。

ただ、CASEの4つの概念はそれぞれが独立に成立しているわけではなく、互いに影響しあっています。

自動運転(Autonomous)を導入するのであれば制御が圧倒的にしやすい電気自動車であることがほぼ必須条件となります。というのも、ガソリン車は部品点数も多くその分操作してから車体が反応するまでに時間がかかり精度よく自動運転を行うのは難しいのです。

つまり、自動運転の普及にはほぼ必然的に電動化の推進が求められるということになります。実際、各メーカーが技術開発をしている自動運転車は報道を見る限りでは電動車がほとんどです。

さらに、自動運転の実現にはIoT化、コネクテッドであることが必須でもあります。

また、Shared(シェアリング)に関しても実は電動化と密接な関係があります。

個人所有からシェアリングに移行するということは、自動車の使われ方が大きく変わるということでもあります。そして、それによって電動化の際に求められる性能の違いも出てくるのです。

そうなると、電気自動車に搭載されるリチウムイオン電池の望ましい姿も変わります。現在では電気自動車の航続距離に直結する「エネルギー密度」が中心に議論されることが多いですが、そこがあまり重要ではなくなる可能性が高いのです。

今回の記事では、電池業界から見た「EV×シェアリング」と「次世代電池」との乖離について考えていきたいと思います。

「次世代電池」とは?

例えば、電池に関するいくつもの国家プロジェクトを行っているNEDOは2013年にこのようなロードマップを出しています。

(出典:https://www.nedo.go.jp/library/battery_rm.html

2020年1月現在ではこちらがNEDOの最新のロードマップとなっています。

細かい文字で色々なことが書かれているのでややわかりにくいですが、基準となる指標として「エネルギー密度」「出力密度」「コスト」の3点を挙げています。

そして、上図右下に書かれている「革新電池」(=次世代電池、と考えて差し支えありません)として挙げられているものはいずれも「エネルギー密度」が極めて高くなると期待されている種類の電池です。

例えば今月初めにオーストラリアのモナーシュ大学が研究成果として発表していたリチウム硫黄電池もその一つです。

参考:https://eetimes.jp/ee/articles/2001/09/news082.html

また、以前の記事でも取り上げた「全固体電池」が注目されている一番の理由も「エネルギー密度」です。急速充電や耐熱性、寿命の長さなどもメリットとして取り上げられることは多いですが、やはり一番議論されることが多いのはエネルギー密度であるように感じます。

実は「エネルギー密度」は大した問題ではない?

実際、次世代電池関係の学術論文を読んでいると、枕詞のように「エネルギー密度」「航続距離」といった言葉が冒頭の研究背景の部分で出てきます。

ですが、電動化の上での本当のボトルネックはエネルギー密度(航続距離)ではないのです。もしそれがボトルネックだとすれば、テスラやベンツ、BMWなどのメーカーは今のリチウムイオン電池を使ったEVを商品化できてはいないはずなのです。

上記の全固体電池に関する記事でも触れていますが、電動化で本当にネックになっているのはむしろコストで、特に安い価格帯の自動車の場合はそこが律速になりがちなのです。

さらに付け加えて言えば、普段からそれほど長距離を走らないような自動車の使い方をする人たちにとってはその点もあまりネックにはならなくなります。

なぜなら、それほど長い航続距離を求めるのでなければ搭載する電池の量も減らせてコストダウンできるので、安くできます。さらに1人や2人で乗ることを前提としてしまえば車体の小型化でより電池も減らせるのでなおさらです。

そこに着目したのがトヨタの「超小型EV」です。その点についても以前の記事で詳しく解説しています。

ここまで説明してきたように、エネルギー密度というのは実はたいした問題ではないのではないか、というのが私見です。

そうなると「次世代電池」の開発によって何か革新が起きるというよりは単なる「カイゼン」に終始してしまうのではないか、とも考えられるのです。

それでは電池における革新的なブレイクスルーはもう起こりえないのかというと、そうではないのではないでしょうか、というのがここからの部分です。というのも、電動車のシェアリングを行うにあたって電池が律速になってくる可能性があるからです。

「EV」×「シェアリング」で求められる電池

電気自動車のシェアリングで実は重要となってくるのが「寿命」なのです。

個人で電気自動車を所有しているのであれば、よっぽど乗りつぶすような使い方をしない限り元は取れます。

一回の充電での航続距離(=1サイクル)が200kmと短めに見積もったとしても500サイクル持てば10万kmですから普通のガソリン車と比較してそこまで遜色はないとも取れます。

500サイクルというと商用化されているリチウムイオン電池の中でも短めの寿命ですが、それでも個人使用であればそこまでは気にならないレベルです。

ただシェアリングで複数人が一台を乗り回すような使い方をするとなると、走行距離は一気に増加します。そうすると、数十万kmほどで電池がダメになってしまうようでは厳しいのです。

個人所有からシェアリングに移行するということは、所有権が個人からビジネスサイド(貸す側の人)に移るということです。ということは、電池が寿命を迎えた時のコスト負担もビジネスサイドがしなくてはいけなくなるということなのです。

そうなるとビジネスサイドとしては、少しでも電池のコストを抑えようとすると第一に考えなくてはいけないのが電池寿命になってきます。多少の初期コストを我慢してでも長寿命の電池を採用した方が結果的に安くつきやすいのです。

これまでの電気自動車は売り切り型の販売スタイルだったので、正直なところ電池寿命というのはそこまで重視した仕様になってませんでした。しかし、シェアリングに移行しようとするのであれば、十分なエネルギー密度を持ちつつも長寿命な電池というのが不可欠なのです。

上記の「革新型電池」のような並外れたエネルギー密度ではなく、シェアリングビジネスに対応できるだけの超長寿命を他の特性(エネルギー密度、急速充電、低高温への耐性etc)と並立できるかが本当の意味でのブレイクスルーになるのではないでしょうか。

つまり、電池関連の報道を見ているとあまりにもエネルギー密度一辺倒で技術開発が行われている印象を受けますが、実際には他の特性における革新の方が次のブレイクスルーにつながる可能性もある、ということを頭の片隅に置いておく必要があるということです。

そのような観点で「EV×シェアリング」の動向を追っていくと新たな発見があるかもしれません。