中国で燃料電池車がブームになっている背景と根本的な課題

中国で燃料電池車がブームになっている背景と根本的な課題

5/22に始まった中国の全人代で、長城汽車や新華聯集団など地場企業のトップが燃料電池車(以下、FCV)産業の育成を提言するなどFCVブーム到来の兆しが見られます。

実際、2019年時点で中国ではトラックやバスなどの商用車を中心に6000台以上のFCVが導入されており、他の先進国と比較しても圧倒的にFCVの普及は進んでいます。

中国というとテスラとCATLとの連携などEVシフトの面で注目されることが多いですが、FCVブームの方も国際的な影響がありそうです。

中国のFCV政策はEVと同様に政府主導で行われるエネルギー政策の一環と言えますが、その背景となるFCVの特性(EVとの違い)や根本的な課題に関しては正しく議論されることが少ないようにも感じます。

国家プロジェクトでFCVモデル都市を推進

北京市、上海市、山西省、江蘇省、河南省、湖北省、広東省、四川省の8省市に中国財務部が提起した「 燃料電池車の示範推進に関する通知 」でFCVモデル都市の認定に取り組む姿勢を示しています。

FCVは車両自体の生産コストもさることながら、燃料である水素の供給設備や輸送など、インフラの整備も重要な課題となっています。

そこで、トヨタが裾野に「ウーブン・シティ」を作ろうとしているのと同じレベルとまではいかなくても、中国もFCV普及に適した都市設計を推進しようと奨励金を出そうとしています。

より具体的には、下記の目標を達成した都市にその度合いに応じて奨励金を支給するようです。

  1. 技術イノベーションと産業サプライチェーン建設として、コア材料、コア部品の技術的突破と産業化を目指し、モデル地区において少なくとも500台のFCVのデモ運行を行う
  2. 新技術車両の推進応用として、技術指標に合致したFCVを1,000台以上の規模で普及させ、累計車両運行距離(単年で3万キロメートル)を満たす
  3. 水素供給と水素ステーション建設として、経済的かつ安全な水素供給源を保障し、15カ所を超える水素ステーションを建設運営する
  4. 政策法規環境の整備として、水素ステーション建設運営、FCV普及使用、安全監督管理などの政策体系を整備する

特に、水素補給はFCVの普及において一番のネックともなり得る重要な点です。EVの給電装置と比べ物にならないほどの設備投資が必要になるため、どうしても水素補給の拠点はEVの充電ステーションほど充実させるのは難しい側面があります。

だからこそ、移動する経路が決まっていてそれほど多くの水素ステーションがなくても十分に運用できる商用バス・トラックのFCVが中国で普及しているとも言えるのです。

大型車・長距離走行に強く燃料充填が速い

水素ステーションの充実という課題がある一方で、FCVは大型車両や長距離走行が求められる車両に強いという特長もあります。

EVの場合、車を大型化したり航続距離を長くしようとするとバッテリーパックのコストが高くつくことになります。だからこそ、テスラのような高級車路線で価格を上乗せするのでない限りEVはできる限りコンパクト・短距離用に設計するのが理にかなっているのです。

また、FCVは燃料充填が速いのもEVにマネできない利点の一つです。EVの「球速充電」はいくら急速といっても100%充電するまでに数十分は必要です。ですが、FCVの場合はガソリンの給油と同じとまではいかなくても数分で終了します。

そのため、FCVはある程度決められた経路の長距離走行が求められてオペレーション上燃料補給にも時間をかけたくない商用バス・トラックに適しているのです。

しかし、それを鑑みた上でもエネルギー政策としてのFCVには決定的な問題があります。それが、動力源であるFC(燃料電池)のエネルギー効率とそのエネルギーの由来です。

FCVはあくまで二次エネルギーを利用

まず第一に、FCVに使われている水素燃料はあくまで他の何かのエネルギーを変換したものに過ぎないという問題があります。

つまり、FCVというのはあくまで二次エネルギーを利用しているという点は決して忘れてはいけないのです。

一般的な水素の製造方法として下記のようなものが挙げられます。

  • 水の電気分解
  • 化石燃料(天然ガスなど)から生産
  • バイオマスから生産
  • 製鉄所や食塩電解などの工場で発生するガスの副産物を分離(副生水素)

中国ではコークス炉ガスからの副生水素が主な水素供給源ではありますが、その水素の分離や輸送には当然ながらエネルギーを必要とします。また、あくまで複製生物であるためその生産量には限りがあり、FCVの数が増えたときにメインの水素供給源として活用できるかはまた別の問題です。

例えば、FCVの普及で必要な水素の量が増えたから発電効率の悪い水の電気分解で水素を生産する、というようなことをしてしまえば本末転倒なのです。

さらに、FCVに用いられているような固体高分子膜を使用した燃料電池の場合、燃料である水素をエネルギーに変換できる効率はせいぜい35~45%程度です。これは現在の火力発電の60%と比較しても低い値です。

つまり、FCVというのは工場で発生する副生成物としての水素を有効活用する分には省エネルギーに貢献しうる可能性はありますが、画期的な水素生産法が生み出されない限りメインストリームとしての自動車の動力源になることはないと言えます。

中国のFCV政策がいつまで続くのか

また、FCVだけでなくEVについても言えることですが、政府からの補助金や奨励金がなくなれば一気にビジネスとしての採算性が厳しくなります。

現在の中国のECVが商用バス・トラック中心なのも、裏を返せば民用車にFCVを搭載するというのはコスト的にも厳しくインフラなどの面でもメリットに乏しいと言えます。

そのような状況で中国政府がいつまでFCV政策を続けるのかは不透明です。中国の財政部が5月に策定した新制度では、FCV1台当たりの補助金額は約10万元と2019年のそれ(1台当たり平均で約570万円)の26%となっています。

そしてそんな中国のFCV市場を支えているのは日本をはじめとする燃料電池の主要材料のメーカーたちです。もちろんトヨタもその一つです。

高い技術力を持つ日本のFCV・燃料電池関連メーカーからすれば中国のFCVブームは追い風のようにも見えますが、今回のコロナウイルスの影響といい中国にどっぷり依存した関係を構築するのは危険が危ないようにも感じます。