リチウムイオン電池の劣化・発火爆発を起こす「電析(デンドライト)」を防ぐために

リチウムイオン電池の劣化・発火爆発を起こす「電析(デンドライト)」を防ぐために

スマートフォンなどのリチウムイオン電池は使い方によっては急に容量が減って持ちが悪くなるということがあります。もちろん使っているうちにバッテリーの持ちが悪くなるのは普通なのですが、それにしても急すぎると感じるほどに一気に悪化することがあります。

このような急な容量の減少が起きた時にしばしば発生しているのが、リチウムイオン電池の「電析」と呼ばれる現象です。

また、リチウムイオン電池の電析は急な劣化だけでなく、発火や爆発といった事故につながる可能性も有る危険な現象です。

どの電池メーカーも自社製品のリチウムイオン電池を市場に出す前に各々の厳しい安全性基準を設けて試験をパスしたことを確認はしています。が、基本的にそれらの試験は電析を起こしていない新品に対するものであって、いくら厳しい安全性基準をパスしているからと言っても一度電析をしたリチウムイオン電池は決して安全とは言えません

つまり、リチウムイオン電池のユーザーとしてはできる限り電析を起こさないような使い方をする必要があるということなのです。

そこで今回の記事では、リチウムイオン電池の「電析」のそもそものメカニズムや防止するための方法についてお伝えします。

リチウムイオン電池の「電析」とは?

まず、そもそもリチウムイオン電池における「電析」というのがどういう現象なのかということについて説明していきます。

電析というのは、一言で言えば「負極の表面に金属の状態のリチウムが析出すること」です

リチウムイオン電池というのは、下の図のように正極と負極の間を行き来することで充放電が進行します。リチウム「イオン」電池というだけあって、通常時はリチウムは金属そのままの状態で存在することは原理上はないのです。

http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/research_highlights/no_66/

充電するときにはリチウムイオンが正極(上図の左側)の中から電解液を経由して負極(右側)の内部へと移動していきます。しかし、色々な条件が重なったときにリチウムイオンが負極の内部にうまく入れずに表面に堆積してしまうことがあるのです。

充電するということは負極に電子が送り込まれてくるということです。普通の充電のときにはリチウムイオンは負極の内部に入ってから電子と結びつきます。(反応の中身は厳密にはもう少し複雑なのですが、ここでは詳細な説明は割愛します)

一方で負極の表面に堆積したリチウムイオンは、その場所でリチウムイオンから金属リチウムへと変化してしまうのです。

これがこれまで述べてきた「電析」という現象の正体です。

電析が引き起こすデメリット・危険性

一度電析した金属リチウムは基本的には元には戻りません。したがって、その分のリチウムイオンは充放電の反応には使われることなく失われてしまいます(「失活」という専門用語で呼ばれます)。また、負極の電析が発生した部分も反応性が悪くなり使えなくなります。しかも、一部分が電析を起こすとそこから連鎖反応的にその範囲は広がっていきやすいです。

つまり、電析を起こすと一気に容量が減って元には戻らなくなるのです。

さらに、電析はデンドライト状(針状)に成長するため、下の図のようにセパレーターを損傷したり突き破ったりする可能性があります。

https://www.nanonet.go.jp/magazine/archive/?page=1343.html

こうなると電池内部でショートしてしまい発火・爆発の危険性が高くなります。デンドライトとして析出したリチウム金属自体の反応性も高いため、なお一層危険度が増します。

近年はスマートフォンやモバイルバッテリー、PC、さらにはエネルギー貯蔵施設の発火・爆発事故が多発していますが、事故を起こしているリチウムイオン電池の一定数はある程度の期間の使用によって電析が発生していたのではないかというのは常に指摘されている要因の一つです。電池が跡形もなく燃えてしまうケースがほとんどなので実証するのは難しいですが。

実際、リチウムイオン電池の開発現場では劣化が進んだ(=電析が発生している可能性が高い)電池が文字通り火を噴くことはしばしばあります。メーカー内では自社・他社製品の分析のために電池セルの解体調査を頻繁に行うのですが、新品よりも劣化品、特に電析が生じやすい電池はうっかり手が滑ったときに段違いに燃えやすいというのが筆者の肌感覚です。

電析を防ぐためには?

そんなデメリット・危険性のあるリチウムイオン電池の電析を防ぐためには、使い方についていくつかの注意をする必要があります。

もちろん、用途によっては電析が起きにくい負極(非晶質炭素、チタン酸リチウムなど)を用いているリチウムイオン電池も市場に出回っているためそのようなものを選ぶのも一つの手です。例えば東芝のSCiBとか。ただし、一般的なリチウムイオン電池は電析が起こりやすい黒鉛を負極に用いているものがほとんどなので、やはり使い方の部分で気をつけなくてはいけません。

同じ黒鉛の中でも電析が起こりやすいものとそうでないものとがあるのですが、モバイル用途で容量重視の設計にしようとするとどうしてもそのリチウムイオン電池は電析が起こりやすくなります。

先ほどもお伝えしたように、電析は基本的には充電しているときに発生するものです。したがって、充電をするときに次の2点が重要になってきます。

  • 低温下(目安としては氷点以下)で充電をしない
  • できる限り急速充電を行わない

この理由はもちろん、低温下での充電や急速充電を行っているときが電析が発生しやすいからです。詳しいメカニズムについてはこちらのサイトで解説されていますので、専門的な内容が気になる方はそちらをご参照ください。

実際に、to B(例えば自動車メーカーなど)向けのリチウムイオン電池を開発する場合は「何℃であれば何A以下の電流で充電すること」といった仕様は品質保証上必須とされています。もちろんモバイルバッテリーなどの市販品に関してもある程度リミットをかけて無理な条件にならないようにはしているはずですが、それでもユーザーの意識次第で電析の起こりやすさは変わってきます。

またPSEマークもなくしっかりとした検査をパスしていない電池の場合、かなり無茶な設計で大容量化をした結果、電析が起こりやすくなっていることも考えられます。

つまり、しっかりと検査をパスしていて変な設計をしていない電池を選ぶことと、充電時の電流値や温度に気を付けることが電析による急激な劣化や発火・爆発を防ぐことにつながるのです。