リチウム生産を低コスト・短時間化するプロセス~実は大量にあるリチウム資源だけど…

リチウム生産を低コスト・短時間化するプロセス~実は大量にあるリチウム資源だけど…

リチウムイオン電池に関してよく取り沙汰されるのは、リチウムやコバルト、ニッケルなどは希少金属で資源的制約があるという問題です。

しかし実際には、コバルトやニッケルはともかくリチウムは資源量だけで言えば決して少なくはありません。むしろ問題になっているのは、リチウムの生産プロセスが高コストかつ時間がかかるため供給が滞りやすいということなのです。

そんな背景がある中、3月9日にNature Materialsでリチウムを低コストかつ迅速に生産するための技術についての論文が掲載されました。オーストラリア・モナーシュ大学など9つの研究機関が共同で発表した成果となっており、かなり大々的なプロジェクトであることが伺い知れます。

URL: https://www.nature.com/articles/s41563-020-0634-7

そこで今回の記事では、そもそも現在リチウムがどうやって生産されているのか、そして本当の課題はどこにあるのか、今回の研究成果は何がすごいのかについて解説していきます。

現在のリチウム化合物の生産方法

現在主にリチウム化合物(炭酸リチウム/水酸化リチウム)の生産に使用されているプロセスは、ざっくりと次の2つに分類されます。

  • リチウム塩湖のかん水を蒸発・濃縮して精製
  • スポジュメン鉱石(LiAlSi2O6)を溶かした溶液から精製

上記2つのプロセスにおける一般的な精製フローはそれぞれ以下の通りです。(ともに独立行政法人石油天然ガス・金属資源機構の資料より引用)

リチウムイオン電池では主に正極材料の原料として炭酸リチウムや水酸化リチウムが使用されています。また、電解液の原料であるフッ化リチウムも炭酸リチウムから生成されるのが一般的です。

元々は南米を中心としてかん水からリチウム化合物を精製するのが一般的だったのですが、2017年ころから鉱石由来のリチウム化合物の生産プロジェクトも開始されるようになりました。

詳しくは 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構のホームページなどで開設されているので気になる方はそちらを参照してください。

現在のリチウム生産の課題:とにかく時間とコストがかかる

かん水からリチウム化合物を精製するプロセスは、「天日蒸発」というプロセスがあることから分かるようにとにかく時間がかかります。要は、食塩の塩田と同じように水を自然蒸発させるため短時間で精製するのは困難なのです。

(塩田のイメージ写真です)

そのような背景から、鉱石からリチウム化合物を精製するプロセスによる生産も2017年ころから行われており現在では主流となっています。ただし、精製に必要な薬剤やエネルギーに要するコストが大きく、採算性・事業性という面ではかん水から精製するよりも難しいのが現状です。

また、鉱石に含まれるリチウム成分(Li2O)は6%程度と言われており、残渣(=取り除いた不純物)が大量に発生するためそれをどうやって廃棄するかも大きな課題です。

ちなみに、リチウム鉱石の多くはオーストラリアで生産されるためそれをリチウムイオン電池の生産拠点が多数存在する中国まで輸送してから精製が行われます。従って、鉱石からの精製の場合は輸送コストも考慮する必要があります。

かん水から短時間でリチウム化合物を精製できる可能性

上記のようなコストや残渣処理の問題があるため、鉱石からリチウム化合物を精製するよりもかん水から精製する方が望ましいと言えます。

しかし、リチウムイオン電池の需要が一気に伸びたことで原料の需要も大幅に増加し、時間のかかるかん水からの精製だけでは対応しきれないというのが問題なのです。

そんな背景もあり大きな意義を持つのが今回発表された研究成果です。

そもそもなぜかん水からの精製で天日蒸発をする必要があるかというと、溶解度の違いを利用してリチウム以外の塩を析出させて取り除くためなのです。特にマグネシウムやカルシウムなどの除去が大変で、そこには独自のノウハウが必要とされてきました。

それが、今回の研究成果ではMOF(Metal-Organic-Framework、金属有機構造体)と呼ばれる物質をフィルターとして使用することによりマグネシウムとカルシウムをかん水から除去できるということが示されたのです。

つまり、長い時間をかけて天日蒸発させなくてもフィルターを通すだけで精製のプロセスの一部が行えるため、精製プロセスの低コスト化・短時間化が可能になったということです。

もちろんこれらの結果はあくまでラボスケールでの実験結果に過ぎないため、これから本当に実用化するとなればスケールアップの検討やMOFの調達など課題は出てくると思われます。しかし、リチウム化合物の精製が低コストかつ短時間で行える可能性が示されたという点は非常に意義があるのではないでしょうか。

参考ウェブサイト

元論文:https://www.nature.com/articles/s41563-020-0634-7

Clean Technicaの記事:https://cleantechnica.com/2020/03/20/new-filtering-process-could-speed-up-lithium-production/

独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料 :http://mric.jogmec.go.jp/reports/mr/20190329/112230/