豪モナシュ大学が開発に成功したリチウム硫黄電池(Li-S電池)について

豪モナシュ大学が開発に成功したリチウム硫黄電池(Li-S電池)について

今月初めに、オーストラリアのモナシュ大学に所属する Mahdokht Shaibani氏 の研究チームがリチウム硫黄電池(Li-S電池)の開発に成功したと発表がありました。Science Advance誌に掲載された元論文はこちらです。

研究グループは製造プロセスに関する特許( PCT/AU 2019/051239 )を申請しており、ドイツのフラウンホーファー研究機関とともに試作セルの製造にも成功したようです。試験では、200サイクル後にも99%の充放電効率をキープすることに成功しています。

リチウム硫黄電池は、容量がとにかく大きいことから次のようなことが報道されています。

  • スマートフォンの電池が5日間持つように
  • 1000km走行できる電気自動車が実現する
  • ソーラーグリッドなどにも搭載される可能性

果たしてこれらの未来が本当にリチウム硫黄電池によって実現するのか…今回の記事で解説していきたいと思います。

リチウム硫黄電池はとにかく軽い

リチウム硫黄電池の特徴として、「とにかく軽い」という点が挙げられます。

理論的には、重量エネルギー密度は現在のリチウムイオン電池の10倍以上になります。現実的にはそこまでの値にはならないものの、現段階ですでに2~5倍の値は達成されています。

したがって、現在のリチウムイオン電池では重すぎて使えなかった用途においてリチウム硫黄電池が活躍する可能性があります。

例えばドローンや空飛ぶ自動車、電気飛行機などは現在のリチウムイオン電池の使用は重量が制約となっているため、リチウム硫黄電池の開発がブレークスルーとなる可能性は大いにあります。

例えば、イギリスのOxis Energyという会社は小型電気飛行機の開発を行うBye Aerospaceと共同でプロジェクトを行い、重量エネルギー密度が500Wh/kg(現在のリチウムイオン電池の2倍ほど)のリチウム硫黄電池を開発しています。

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リチウム硫黄電池の採用によって、小型電気飛行機の航続距離を2倍に伸ばすことができると予想されています。また、より大型の飛行機も電動化できる可能性があるとされています。

EVへの応用可能性は?

上記のように飛行体の電動化においてブレイクスルーを生み出す可能性が示されたリチウム硫黄電池ですが、報道においてよく引き合いに出されるのは電気自動車(EV)への応用です。

例えば上記のモナシュ大学 Mainak Majumder氏本人も、「リチウム-硫黄電池の開発および実装により、自動車市場に大きな変革が起こるだろう」という趣旨のは発言をしているようです。

しかし、実際のところはリチウム硫黄電池が実装されてもEVに応用されるかは正直なところ微妙です。なぜかというと、EVの電池で律速になっているのはコストや体積エネルギー密度だからです。

まず、コストに関してはリチウム硫黄電池が現在のリチウムイオン電池と比較して安くなるかは微妙です。確かに正極の硫黄は資源自体も安くコストダウンが見込めますが、負極に用いるリチウム金属(リチウムイオン電池は黒鉛)がネックです。

さらに、電極設計の仕方にもよりますがリチウム硫黄電池は重量当たりのエネルギー密度は高くても体積当たりだとリチウムイオン電池と大差ありません。つまり、リチウム硫黄電池にしたから電池パックをコンパクトにできるというわけではないのです。

また、リチウム硫黄電池は出力が出にくい、つまり急速充電には対応しずらいというのも大きな課題です。モナシュ大学が発表した成果も急速充放電ができているとは到底言えません。硫黄は決して導電性に優れた材料とは言い難いので、急速充電が求められるEVには適用しづらいと考えられます。

リチウム硫黄電池の課題①

そんなリチウム硫黄電池ですが、ドローンや電気飛行機、空飛ぶ車にしろEVにしろ、実用化する上で大きな課題となる点が2つあります。その一つ目が「電池寿命が短い」という点です。

例えば上記のモナシュ大学のリチウム硫黄電池は200サイクル程度、Oxis Energyのものは500サイクル未満、日本の産官学プロジェクトで開発されているリチウム硫黄電池も800サイクル程度です。

現在のリチウムイオン電池が数千サイクルほど持つことを考えると、正直物足りないといえます。また、以前の記事でも取り上げられたようなシェアリングもしくはリースのような形態で使われるとなるとなおさら電池寿命の問題は顕在化します。

使用可能なサイクル回数が短ければ交換のコストも高くつくため、コスト性が求められるような用途ではよりシビアな問題になります。

リチウム硫黄電池の課題②

そして、あまり報道されることはないものの製品化する上で決して避けて通ることができないのが「確実に」安全性を確保するにはどうすればいいかという問題です。

例えばOxis Energyでは難燃性の電解液を使用するなど安全性に配慮はしているようですが、一番の本質的な問題は負極にリチウム金属を使用しているという点です。

現在のリチウムイオン電池が(何とか市場に出せるレベルの)安全性を確保できたのは、負極をリチウム金属から黒鉛に変えることで短絡(ショート)の元になる「デンドライト」を発生しにくくしたからです。

しかし、リチウム硫黄電池は負極にリチウム金属を使用する前提であるため、デンドライトによるショートの危険性を完全に排除することは難しいです。

難燃性の電解液を使用してデンドライトを発生しにくくさせるという取り組みはされていますが、特に使用で劣化した電池においてデンドライトが「完全に」発生しないような電池を作るのは品質のばらつきもあるためものすごく難しい問題です。

まとめ

逆に言えば、電池寿命と安全性、この二つの課題を克服することができれば、特に軽い電池が求められるアプリケーションでリチウム硫黄電池が実用化される日も来るかもしれません。

現在のリチウムイオン電池がEVや蓄電システム、IT機器など新たなアプリケーションを切り開いていったように、リチウム硫黄電池も現在のリチウムイオン電池の置き換えでなく新しい応用先を作ることになると思われます。