【トリビア】リチウムイオン電池が普及した本当の理由

【トリビア】リチウムイオン電池が普及した本当の理由

2019年のノーベル化学賞はリチウムイオン電池の開発に大きく貢献した3名の科学者に授与されました。その3名の中に旭化成の吉野彰さんも入っていたことでリチウムイオン電池は大きく脚光を浴びることとなりました。

現在(2020年3月)でもニュースでリチウムイオン電池に関して度々取り上げられており、「軽量でコンパクト」「起電力が高い」などの様々なメリットが伝えられています。その甲斐もあり、リチウムイオン電池がとりあえずすごい電池だという認識は一般の方たちにも持ってもらえているようです。

でも、そもそもなぜリチウムイオン電池がこれほどまで普及したかという点に関してはあまり知られていないのではないでしょうか。これまでの歴史の中で、その当時では優れていて画期的であるにも関わらず市場に広まることなく埋もれていった技術は山ほどあります。

実は、吉野彰さんが2014年の SPring-8グリーンサスティナブルケミストリー研究会にて行った講演で、リチウムイオン電池が普及したのはある「外的要因」によるものだと証言しています。

つまり、リチウムイオン電池がここまで普及したのはちょっとした偶然でもあるのです。そんなリチウムイオン電池に関するトリビアを今回の記事で紹介したいと思います。

一般的に言われているリチウムイオン電池の長所

現在ではIT機器や電気自動車(EV)、さらには蓄電デバイスなど様々な用途に使われているリチウムイオン電池ですが、他の電池と比較して一般的に次のような長所があると言われています。

  • 小型・軽量
  • (Wh当たりの)コストが低い
  • 寿命が長い
  • メモリー効果がない

多くの方の認識としては、上記のような長所があるから1990年代にIT機器にリチウムイオン電池が用いられるようになりそれが転じて2000年代以降にEV用の電池として使用され始めたというものではないでしょうか。

リチウムイオン電池がEVで使われるようになった理由としては、やはりIT機器において普及したことで市場での実績や商品としての信頼性が出たということは間違いなくあるでしょう。普及したことによってより生産コストを抑えられるようになったというのも要因として挙げられます。

リチウムイオン電池は普及したから性能が上がった

そのような市場実績や信頼性の部分はもちろんですが、性能自体も普及してから大きく上がった部分があります。吉野さんの講演スライドでもそのような記述がされています。

http://support.spring8.or.jp/Doc_workshop/Text_20140704.html

ここは重要な部分なので強調しておく必要があるかと思いますが、性能が上がったから普及したのではなく、普及したからさらなる開発が進められて性能が上がったのです。コストについても然りです。

吉野さんが2014年の講演で使用していたスライド(下の2つの図)にもあるように、エネルギー密度(性能の指標の一つ)、コストの両方において1992年の商用化開始以来飛躍的な進歩が見られます。

http://support.spring8.or.jp/Doc_workshop/Text_20140704.html

もともとはSONYが1992年に世界で初めて上市したリチウムイオン電池ですが、その直後はあまり売れ行きが芳しくなかったのです。本格的な量産を始めたのは1994年ですが、それまでは1Whあたり400円以上(今のリチウムイオン電池の10倍以上)とコストも高く事業性は悪かったのです。

そのため、上記のように性能が上がりコストが下がる前に技術としては闇に葬られる可能性も十分にあったのです。

では、いったい何が起きてリチウムイオン電池が普及したのでしょうか?1枚目のスライドにあった「外的要因」とは一体何なのでしょうか?

ここの点は今回のノーベル化学賞関連のニュースの中でも報道されない部分ですが、リチウムイオン電池のこれからを予想する上で重要なカギとなる事実が隠されています。ちょっとしたトリビアとしても面白いと思うので、是非覚えておいておくと良いでしょう。

リチウムイオン電池が普及した本当の理由

1994~95年というのは、上の年代の方なら何となく覚えているかと思いますが、第2世代(2G)携帯電話Windows95が登場したタイミングです。

そして、技術的な側面から言えば3Vで駆動するICが出てきたのがその頃なのです。3Vと言えば、リチウムイオン電池だと1本で出せる起電力です。

それまではICを駆動するのに5.5Vの電圧が必要でした。そのためにNi-MH電池5本を直列に接続して使用していたのです。リチウムイオン電池の場合は起電力が3~4Vなので2本で済むのですが、正直言って5本が2本に減るだけでは大して違いはありません。

しかし、3Vで駆動するIC+その電圧を1本で出せるリチウムイオン電池という組み合わせができたことによって一気にリチウムイオン電池の優位性が出てきた、というのが吉野さんが分析したリチウムイオン電池普及の決定打です(下のスライド参照)。

ここで補足しておくと、リチウムイオン電池に限らず電池を直列に2本以上接続して機器を動作させるというのは思う以上に大変なことなのです。理科の授業でやるように単に電池を2本繋げれば済むという話ではありません。

電池を2本以上直列に接続した場合、何もしないと1個1個の電池の電圧や容量がばらばらになってしまう(セルバランスが崩れる)ため過充電・過放電が起きやすかったり片方だけ寿命が極端に短くなるということが起こります。

セルバランスが崩れるのを防ぐために追加で専用のICをわざわざ搭載しなくてはならないなど 、2本以上の電池を使用する場合は構成が一気に複雑になってしまうのです。

つまり、「 3Vで駆動するIC の登場」こそがリチウムイオン電池普及の「外的要因」なのです。あまりこの点を指摘する人はいないのですが、リチウムイオン電池普及の裏でICの進化があったというのはちょっとしたトリビアとして覚えておくと自慢できるかもしれません。

次世代の電池における「外的要因」は?

最近では全固体電池やリチウム硫黄電池など様々な「次世代電池」の研究開発が次々と行われていますが、果たしてその中から現在のリチウムイオン電池のように爆発的に普及する物は出てくるのでしょうか?やはりそれが起きるかどうかは、「外的要因」に合うような電池を開発できるかどうかにかかっていると言えます。

IT機器用のリチウムイオン電池で言えば、重要なのは寿命でもエネルギー密度でもメモリー効果でもコストでもなく、「IC機器を1本で動かせる電圧が出せるかどうか」だったのです。それ以外の要素は言ってしまえば後付けで進歩した部分です。

では、次世代の電池における「外的要因」とはいったい何になるのでしょうか。

その答えは電池が使われる用途によって変わってくるし確実なことは誰も言えないのではっきりとはわかりませんが、例えばEVであればシェアリングのような使い方に耐えうるだけの耐久性かもしれません。

あるいは、蓄電デバイスであれば危険物規制に引っかからないような材料(主に電解液)を使用した安全な電池かもしれません。今のリチウムイオン電池は電解液に有機溶媒を使っていて発火・爆発の危険性があるため、蓄電デバイスとして設置する際にかなり規制が厳しいのが実はネックになっている部分もあるのです。

この他にも色々な「外的要因」の例は挙げることはできると思いますが、次世代の電池についての報道を見ているとそのような視点から分析しているメディアはあまり多くないような印象を受けます。

もちろん技術的には電池の世界で次々と面白いものが出てきているし、もしかしたらその中から本当に世界を変えうるものが出てくる可能性は十分にあります。

ただし、例えば単純にエネルギー密度の高い電池ができたからEVの航続距離が伸びて電動化が進むようになるかというとそういうわけでもないのです。現にテスラなどはすでに普通のリチウムイオン電池を使ったEVで成功しているわけですし、航続距離(=電池のエネルギー密度)が「外的要因」というわけではないのです。

ここの点については中々読み解くのが難しい部分ではありますが、このサイトではそのような視点からも今後の電池関連の動向について分析していきたいと思います。