全固体電池以上のインパクトをもたらす?「単結晶」正極活物質

全固体電池以上のインパクトをもたらす?「単結晶」正極活物質

現在はEV用の次世代電池として「全固体電池」が注目されていますが、実はそれ以上にEV普及にインパクトをもたらす可能性がある(と著者が勝手に思っている)のが「単結晶」正極活物質です。

例えば4月24日のTESMANIANのブログでは、テスラが単結晶NCA正極の特許を出しているという情報が出ていました。それ以外にも、単結晶NCMを使用することで160万キロメートル走行に相当するサイクル寿命のリチウムイオン電池を作製した論文も発表されています。

実はテスラ以外にも、中国系のメーカーでは単結晶のNCAやNCMを積極的に採用しようとする流れが出てきています。少なくともEV用など大型のリチウムイオン電池に関しては、全固体電池よりも単結晶NCA、NCMなどの方が直近ではメインストリームになり得る可能性は大きいです。

※NCMやNCAという正極材料がどのような特徴を持つのかということに関しては以前の記事で詳しく解説しています。

そんな単結晶NCA、NCMはいったいどこが優れているのでしょうか?そして実用化までにどのようなハードルがあるのでしょうか?

そもそも「単結晶」正極活物質とは?

そもそも「単結晶」というのはどういうことか分からないという人も多いと思うので初めに補足しておきたいと思います。

Journal of The Electrochemical Society, 164 (7) A1534-A1544 (2017)

この写真は上が単結晶NCM、下が多結晶(=従来の)NCMの電子顕微鏡像です。下の多結晶NCMの粒子は細かい結晶が集まって構成されているのに対して、単結晶NCMは一個一個の結晶が単独で粒子を構成しています。

つまり単結晶の正極活物質とこれまでの活物質との違いは一個一個の結晶が大きいという点なのです。

単結晶であることの圧倒的な利点

一個一個の結晶が大きいということは、それだけしっかりとした安定性が高く耐久性のある結晶になりやすいということです。

したがって充放電を繰り返しても劣化が起こりにくく、さらに高温下でも結晶構造が壊れにくいためこれまでNCA、NCMで問題となっていた酸素発生(→発火・爆発につながる)がしにくいのです。 細かいメカニズムは色々とあるのですが、ざっくりといえばそんな感じです。

つまり単結晶の正極活物質を使うことによって、これまでEV用リチウムイオン電池で課題とされてきた電池寿命や耐久性、安全性が大幅に向上する可能性があるのです。

※もう少しきちんとしたメカニズムなどが知りたいという方はこちらの文献が参考になるかと思います。

Jing Li et al 2017 J. Electrochem. Soc. 164 A1534

これからのリチウムイオン電池を考える上で電池寿命と安全性というのは航続距離やエネルギー密度などの指標以上に重要になってくるというのは以前の記事でも説明したとおりです。

単結晶正極材の課題

とはいえ、まだ実用化されていないだけあって単結晶NCA、単結晶NCMにはそれなりに課題もあります。

まず一つ目がコストが高いという点です。食塩などでも同じですが、結晶を大きく成長させるためには長い時間と繊細な制御が必要になります。

そして二つ目は高速充放電や低温での性能にはマイナスになるという点です。結晶が大きい分、リチウムイオンの出し入れをスムーズに行うのは難しいのです。

また、材料メーカー側もこれから生産に取り掛かるという段階であるため、細かい製造条件などを詰め切れておらず最適化ていないというのもユーザー側、つまり電池メーカーにとってはネガティブな面です。

そのような課題があるため、日韓のメーカーで単結晶のNCMやNCAを本生産しようとしている動きが見られるところは筆者の知る限り現時点ではありません。

単結晶正極材のこれから

しかし、中国のメーカーでは本格的に生産に向けた動きが見られるところもあり、噂ではCATLが単結晶NCM811を採用しようとしているのではという話(これに関しては真偽は不明ですが)もあります。

また、テスラはDalhousie大学のJeff. Dahn教授とタッグを組んで単結晶NCMを使用したリチウムイオン電池を内製化しようともしているようです。

コストだけで観れば割高になりそうな感もありますが、耐久性や安全性が求められるようなシェアリング、もしくはBtoBの用途であれば単結晶NCA、NCMを使用したリチウムイオン電池がその普及を大きく後押しすることになるかもしれません。