ピュアEV普及はまだまだ先!?トヨタの超小型EVとロードマップ戦略

ピュアEV普及はまだまだ先!?トヨタの超小型EVとロードマップ戦略

今年の東京モーターショーでトヨタから「超小型EV」が2020年冬に発売されると発表がありました。「超小型EV」という名前の超小型EVだそうです。

二人乗りのモデルで最高時速は60キロ、航続距離は100キロメートルほどと、近場での移動を前提としたEVになっています。もちろん内燃機関を一切使用しないピュアEVです。

この超小型EVを国内で普及させるために、トヨタは40以上の企業・自治体とパートナー契約を既に結んでいます。

ところでトヨタは、普通のサイズのピュアEVというのは出していません。プリウスやミライのイメージが強いので環境対応車を出していそうなトヨタですが、実はピュアEVを前面に出していくことに対しては否定的なのです。

トヨタに限らず、日本でピュアEVが普及しないのにはそれなりに理由があります。決して日本の自動車メーカーが保守的だからとかそのような理由だけでは決してないのです。(全くそのような傾向がないというわけではありませんが)

「なんで超小型EVなの?」「なんで日本では普通のEVが普及しないの?」

その核心となる部分について、キーデバイスの一つであるリチウムイオン電池の性質についても簡単に説明しながら明らかにしていきます。

ピュアEVを前面に出してないトヨタ

これを読んでいるあなたがトヨタという企業に対してどのようなイメージを持たれているかは分かりません。

ただ一つ言えるとすれば、トヨタはとにかく超合理的で理詰めでビジネスを考える会社です。本音と建前の使い分けは絶妙だし、確実に売れるものだけを作って手堅くガッチリ稼いでいく。それがトヨタです。

そんなトヨタが2015年に「トヨタ環境チャレンジ2050」で示した次世代自動車の開発ロードマップがこれです。

境界線をぼかして書いてあるので若干見づらいかもしれませんが、よく見ると2050年時点でもEV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)が占める割合が非常に小さい(両方合わせても30%ほど?)ことが見て取れます。

同じく「トヨタ環境チャレンジ2050 」で公開されたこのマップを見ると、トヨタの中でのピュアEVの位置づけが分かりやすいです。

少なくとも(中国や欧州ほど環境規制が厳しくない)日本ではHV(ハイブリット車)やPHV(プラグインハイブリット車)を主力にしていこうというのがトヨタの、そしておそらく大多数の日本の自動車メーカーの考え方なのです。

長距離ドライブには向かないリチウムイオン電池

上記の図でピュアEVは近距離用途や小型用途がメインとして位置づけられてきました。この図は4年前のものなのですが今回の超小型EVの発表とかなり一貫性が感じられます。

それではなぜこのような位置づけになっているかというと、そもそもEVに搭載されているリチウムイオン電池は長距離ドライブのような使い方には向いていないからなのです。

まず第一に、リチウムイオン電池のコストが高いという問題があります。普通のガソリン車と同じだけの航続距離を実現しようと思えばバッテリーだけで2~300万円は下りません。

じゃあどうするかというと、バッテリーの量をなるべく減らして充電をいっぱいいっぱい(0~100%近く)使うような方法が考えられるわけですが、それはリチウムイオン電池の寿命を縮める大きな原因です。

リチウムイオン電池というのは、充放電を限界ぎりぎりまでしてしまうとダメージを受けてしまって容量が目減りします。以前の記事でスマホのバッテリーを長持ちさせる方法について解説しましたが、思いっきりその方法に反しているのです。

その点を考慮すると、EVに搭載するバッテリーの量は中々減らせません。だから、どうしてもピュアEVは高くなってしまいます。

トヨタ以外の日本の自動車メーカーのピュアEVの価格はこんな感じです。

  • 日産リーフ…約350万円
  • 三菱i-MiEV…約300万円

リーフやi-MiEVはいわゆるファミリーカーの分類に入るかと思われますが、それであればもう少し安くガソリン車、ないしはハイブリッド車が購入できます。そこまでお金に余裕が無いファミリー層がどちらを選びやすいかは言うまでもないと思います。

つまり、一般の消費者向けに従来のガソリン車のようなそこそこ長い距離を走る用途でEVを売るのはかなり難しいのです。

お金に糸目をつけないというお客以外は。

「プレミアムEV」という裏技

そう、逆に言ってしまえばお金に糸目をつけないというお客に対してはEVを売るのはそこまで難しくはないのです。

バッテリーをとにかくたくさん載せて、それ以外にもデジタルで未来感のあふれるインターフェースにしてしまえば機能も充実するし新しい物好きの富裕層は食いつくこと間違いなしです。

今話題の自動運転もピュアEVで電動モーター主体であればこそ制御がしやすく実現できるものですし、車内のデジタル化も大量の電源があれば実現しやすいです。つまり、ピュアEVの方が都合が良いのです。

それを「プレミアムEV」というコンセプトで世の中に初めて出したのがテスラなのです。

テスラ以外にも、ポルシェやジャガー、フェラーリにベンツ、BMW、アウディなどEVを出しているメーカーは多くが高級車ブランドだということは留意しなくてはいけません。

つまり、自社がそれまで培ってきたブランドで思いっきり高い値段をつけて「プレミアムEV」として売り出せない限り、普通のガソリン車と同じような航続距離でピュアEVを出すのは難しいのです。

プレミアム以外でのピュアEVのメリットは?

そのように考えると、上記のようなプレミアム用途、いわゆる高級車路線以外ではピュアEVを売るのは自動車メーカー側にとってもあまりメリットはありません。

また、いくら環境に良いといっても消費者側もコストや使いやすさを考えるとピュアEVを買うのはためらわれるところがあります。

プレミアム用途以外でいえば、ピュアEVは環境に良い以外のメリットは消費者にとってないのです。

ではそのメリットを生かすためにはどうすればいいのか?

環境に良い車に乗るということがコスト以上に大きなメリットとなる消費者はどこにいるのか?

あえて挙げるとすれば、「環境に良い」というイメージを周囲に持ってもらう必要のある企業や自治体です。

そこで話は冒頭のトヨタの「超小型EV」に戻るわけです。

そのような企業・自治体の社用車としてであれば、それほど航続距離が長くなくても良いためバッテリーの量も減らせてコストも安くできます。しかも、電池の容量を目いっぱい使うことも少ないため寿命も縮みにくく、コスト低減にもつながります。

全面的に一気にEVを導入しようというのではなく、消費者にとって確実にメリットのあるようなところから少しずつ導入していこうというのがトヨタをはじめとする日本の自動車メーカーの戦略、ロードマップであるといえます。

リチウムイオン電池の進化でロードマップは変わりうる

そうはいっても、このような状況はあくまで現在のリチウムイオン電池のコストや性能を基にしたものです。このトヨタのロードマップ(再掲)も、何か氏らのブレークスルーとなる技術革新があれば当然変わりうるのです。

例えば、最近自動車業界で熱心に研究開発が進められているデバイスの一つに「全個体電池」があります。もちろんトヨタはその最先端企業の一つです。これがもし実現すれば性能が飛躍的に向上してEVの普及が大幅に進むというような趣旨のことはしばしば報道されています。

(個人的には全固体電池に関してはあまりポジティブではないのですが、その点に関してはまた別記事で解説したいと思います。)

大切な点としては、全固体電池にしろ他の電池にしろ、今のリチウムイオン電池を超えるような電池が出てくるとどの自動車メーカーも自社の開発ロードマップを書き換える必要が出てくるという点です。

コストや機能的に今のリチウムイオン電池ではピュアEVにするメリットはなかったわけですが、次世代型の電池が出てきたらそれが大きく変わるかもしれません。

もちろん消費者にとっては好ましいことですが、既存の開発に多額の投資をしているメーカーからしたらたまったものではないということでしょう。だからこそ先取りしておきたいという心理があるはずです。

電池の研究開発にこれほど自動車メーカーたちが本気で乗り出しているのはそのような背景があるのです。

何はともあれ、普通のファミリーカーのようなピュアEVが街をあちこち走り回るのはまだまだ先になりそうです。